2019年春~冬 環境アドバイザー・鈴木美津子さんの活動報告

皆伐の土地を原状の姿に

伐採の危機にある軽井沢の樹木約800本を保護してきた鈴木美津子さん。自然景観を守る活動は15年にわたり多くの人に感動を与えてきた。2019年春から冬の活動を追った。

鈴木美津子さん

鈴木美津子
すずきみつこ

造園家、環境アドバイザー。羽田国際空港の庭園や原宿表参道・東急ビルの屋上庭園をデザイン設計し注目を集めた。長野県のアダプト認定「しいある倶楽部」代表。

2019年4月下旬

皆伐の土地を原状の姿に

 軽井沢BESEA事務局に中軽井沢・柳宿の住民から電話があったのは4月中旬のこと。柳宿の1500坪の土地の樹木が奥まで切られようとしているという。鈴木さんが環境課に問い合わせると無届けで伐採していることが分かり(軽井沢町では300㎡以上の土地の樹木を切る場合は届け出が必要)、環境課はただちに中止させた。GW明けに、住民代表と鈴木さん、町議会議員2名が間に入り、業者と原状回復に向けての話し合いが行われた。業者は「これ以上の伐採は行わない」「原状に近い樹高5~7mの木を植える」など、住民の要望を受け入れた。6月に入り、鈴木さんはモミジやコブシ、山桜など環境に合った木を指定して植えるよう業者に伝えた。近隣の住民からは「キジやリスも来ていた所なので、緑の環境が戻ってよかった」と喜びの声が聞かれた。

皆伐された土地に、樹木を植える。

2019年5月

道の街路樹が消えた

 長野県のアダプト制度に認定されている鈴木美津子さんの所へは、県の合同庁舎から街路樹に関して連絡が入る。「H社から連絡があり、入り口の木を見てほしいという連絡があったので行ってみてください」と言われ、すぐに駆けつけた。
 担当のNさんが「この辺の街路樹を全部切ってください」と言う。「全部…なぜですか?」と不思議に思って尋ねると、「邪魔で見えないんです」とNさん。自転車に乗って邪魔にならない2m50㎝の高さまで枝は切ってある。「歩道ですから邪魔にならないし、CO2を濾過する役目もあります」と説明すると、驚いたことにその人は「木が切れないなら、ツツジを切って」と言うので、「これは国民の財産ですから、切ることはできませんよ」と応えると、不満そうな顔を見せた。H社の先代の社長は「私は森の番人だ」と言って自然保護に尽くしてきた人である。今も自然を守るイメージが大きいだけにこのNさんの言動は信じられなかった。
 それから数か月後、BESEAの会員が写した写真が下の写真。この人が切ったかどうかはわからないが、千ヶ滝通りエリアの街路樹がここだけ破壊されたことは間違いない。

千ヶ滝通りは緑の美しい街路樹が続く場所なのだが…。
数ヶ月後、街路樹は除去され、ツツジも消えていた千ヶ滝通り(国道146号)。

2019年6月下旬

これでもまだ生きている大木

 6月下旬、中軽井沢の国道沿いのモミジを伐採した。この年はGWに雪が降り、マイナス7.8℃まで下がった時があった。そのため、芽吹いたばかりの芽が凍傷で焼けてしまい、新緑の季節になっても1枚も葉が出ることがない木があった。環境アドバイザーの鈴木美津子さんは街路樹をチェックして、枯れたと判断した木は切らなければならなかった。
 中軽井沢の国道沿いにあるこの木もその判断を迫られていた。鈴木さんは「下枝が1、2本残っているから、まだ幹は生きている」と判断し、切るのを少し待って様子を見ることにした。

中部小学校へ曲がる角の信号前にあるモミジの大木。

2019年10月中旬

周囲に木がなく、強風が当たったら

 9月~10月には大きな台風が次々とやって来たため、鈴木さんは樹木の点検に回った。10月に離山近くに、これは危ないと思われる木があった。周囲が開発のためか切られているので、強風がまともに当たったら、倒れる可能性が大きい。鈴木さんはその木の樹高を低くする指示を出した。2日後、台風19号が通りすぎていった。もしそうしなければあの強風ではどうなっていたか、わからないだろう。

枝を切る前のモミジ。

2019年10月下旬

環境アドバイザーの判断は「15本すべてを伐採」

 台風19号で借宿の木3本が倒れたという連絡があった。倒れた木は隣家と50㎝の差で事故は免れた。しかし、その家の庭にはまだ15本ほど木が残っているので、倒れないか見てほしいという。行ってみると、その家の敷地は木の植栽場所だけすり鉢状の窪地になっている。窪地に雨水がたまり、木が埋まっている。台風19号はもの凄い雨量で、千曲川が氾濫したほどである。「土は固まっていても、根は水浸しでグラグラしているので、台風が来たら全部倒れます」と鈴木さんは判断して、全部切ることを勧めた。100坪以上の土地の木の伐採は届けがいるが、鈴木さんの判断の理由を話すと、町役場も伐採を認めた。

根が水浸しになり倒れた木。

2019年12月

皆伐の土地を原状の姿に

 台風19号のあと、「湯川が氾濫したら大変だ」と軽井沢町議会で話が出たことから、湯川の中にある樹木について、県の合同庁舎から鈴木さんに相談が来た。
 湯川の中にある木に流木が引っかかったら、水がせき止められ、それが鉄砲水のように急激に流れ出るという危険性がある。全部切るか、あるいはどのように残すかという相談だった。
 鈴木さんは「スムーズに流れるようにするには、障害物を取っていつもきれいにしておかなければいけない。全部切ればゆるやかに流れるが、すべてを取り去ることなどできるわけがない。しかし、今のままでは色々なものが引っかかる。方法としては、丈夫そうな木を程よく残して、川の流れを確保する。ネコヤナギやアカシアなどの小物は切る」と提案した。
 12月の寒い冬の日、鈴木さんは湯川の点検に回り、川に入って県から請け負った建設会社の作業員に1本ずつ、どのように切るかを指示した。しかし、作業員は切った木を片付けるだけなので、片付いてない木がたくさんある。「全部片づけてください」と言うが、作業員は「そこまで頼まれていない」と帰っていった。
「この状態では危険」「このままでは大雨や台風が来たらどうなるかわからない」と鈴木さんは心配していた。翌年3月、鈴木さんが湯川に3回目の点検に行くと、流木はきれいに片付いていたので、ホッとした。

湯川畔で切る木を指示する。